識者コラムColmun
正しい就業規則の作成と就業規則モデル
- 目次
- ・就業規則作成の必要性
- ・就業規則作成のよくある問題点
- ・就業規則作成の問題点を放置するリスク
- ・就業規則作成の問題点の解決策
- ・就業規則の作成(モデルケース有り)
- ・その他考慮すべきポイント
- ・まとめ
就業規則作成の必要性
就業規則作成はなぜ必要か?正直、なくても良いものです。但し、労働基準法が定めている部分として、常時10人以上の労働者がいる場合は、就業規則作成と届出を義務付けていますので、法律の要件は満たす必要があります。これは必須事項です。
なくても良いといった真意は、就業規則作成と届出義務を果たすのみでは、実際の労務を管理する上で、逆効果になる可能性があるからです。つまり、会社側が、就業規則作成時の内容の把握や法律の解釈などが曖昧で理解できていない状態で運用をすると、会社にとっても労働者にとっても不利益を生じる可能性があるのです。
そもそも、労働基準法は強行法規といって、自動的に強制適用される法律です。例えば、赤信号を無視すると、道路交通法に違反します。これは、相手に譲ってもらったからといっても、赤信号を無視すれば違反になる、と一般的には理解がされているからです。同様に、労働基準法は強行法規ですので、労働基準法に抵触すれば違反となります。
労務の管理をする上では、強制的に労働基準法が適用されるという前提があり、その状態で個別の任意ルールを作っていくこと、それが就業規則作成につながるということになります。労働基準法で定められている内容や労働基準法の作用を理解していないと、最低ラインの就業規則作成ができないというわけです。言い換えると、一般的に労働基準法の水準を遥かに超えた就業規則作成している可能性が高いということになります。
あらゆるところで入手可能な雛形も、役所の雛形も、専門家の雛形も、基本的に労働基準法の水準を当然に超えたものであるとの認識で良いと思います。なかには、労働基準法が全く理解されておらず、法律水準を明らかに下回っている雛形や、実際に運用をされているものも、ちらほら散見される場合はあります。水準を下回っても上回っても、どちらでも労働基準法は次のような適用となるため、作成サイドはさほど気にしていないのではないかと予測されます。
それは、労働基準法の水準を上回った就業規則作成の場合は、後で労働者に不利に働く不利益的変更をなすことができないのが原則です。厳密には合理性のある変更と合意のある変更は妥当性があれば認められる場合がありますが、原則は不許可となります。一方で、労働基準法を下回った就業規則作成の場合は、労働基準法の水準まで引きあがります。従って、実際に作成した就業規則の運用の最中に、ある日突然、「自社の就業規則では労働基準法の水準が下回っているので、その部分については無効です」などと言われる日がくるかもしれません。日頃から、「うちは就業規則作成をしっかりとしてあるから大丈夫だ」と思っていたのにいざというときに使いものにならなかった、という事態は事前に防ぎたいところです。
せっかく就業規則作成をし、運用をしているにもかかわらず、適切な労務管理の運用の実態が成し得ないとすれば、それは就業規則作成と届出義務のみに焦点がいき、実際の運用としての就業規則作成はないに等しいと言えます。むしろ、突発的に通用しないことなどが発生するのですからマイナスとなります。
では、就業規則作成の必要性については、どのように捉え、どのように準備し、実際の運用はどのように行っていけばよいのでしょうか。
まず、作成しようとする就業規則に沿って、労働基準法上、必須事項かどうかを判断する。必須事項でないものは基本的に要りません。必須事項が抜けていると、法違反として抵触してしまいますので、法律を理解した上で反映しておくことが必要です。次に、法律には定めがないが、自社の事実実態に基づいて、間違いなくあった方が良いかどうかで判断する。永続的に実態としての任意ルールを適用させるには、就業規則作成時に記載する必要があります。これを相対的記載事項と呼びます。事実実態にあった就業規則作成を行うことで、会社側、労働者側の双方にメリットがあると言えますので、基本的には、この2つのことに注意をして就業規則作成をしていくと良いと思います。
労働基準法は、すごくざっくりとした法律です。そもそも法律とはざっくりとしているものです。事細かく法律を制定すると実際の社会が機能しなくなってしまいます。従って、実際の社会の中では、個別具体的な理由などを踏まえて、それを明確化し、トラブルを未然に防ぎ、一定のガイドラインに沿って、労働環境の均衡を保つという考え方のもと、就業規則作成を行うと良いと思います。そして、本来の法律の理解と作用をしっかりと踏まえた上で、自社の個別ルールが明確化されるツールとして、就業規則作成は最適なものだと言えます。逆に作成しなければ、とてつもなくやりづらさが生まれる部分が多く潜んでおりますので、やはり就業規則作成は行った方が良いと言えます。
就業規則作成のよくある問題点
前述の通り、就業規則作成のよくある問題点とは、適当に雛形を使っているということです。役所のホームページからダウンロードしているなどはまだしも、前の会社のもの、知り合いの会社のもの、税理士にもらったなど、かなり適当に、どれも同じとの感覚で用いていることが多くあります。これは大問題です。
ない方がマシです。
それは、作成当事者が法律と実態、はたまた書かれている内容を理解せずに運用をしていることが多いからです。社会保険労務士に作ってもらったなどというものもあり、見せてもらうと、あまりにも実態とかけ離れた文章がずらりと並んでいることがあります。呆れかえります。
かわいそうに。これを専門家の方以外は、どんな風なリスクがあるかも把握しないまま運用をしているわけです。なかには、助成金申請をしているためか、助成金欲しさに付け焼き刃の内容が盛り込まれており、整合性がなく、実際の労務管理にどの程度の影響を及ぼすかを把握していない場合も多くあります。
他にも、昔に作った就業規則を使用しており内容を全く理解していない、労働者を取り締まるものが就業規則作成だと考えていて、労働者への服務規律や罰則のことにしか注力をしていない、はたまた就業規則作成と同時に裁量労働制を取り入れるのは良いが、1年の変形労働時間制やフレックスタイム制を導入しただけで、実際のオペレーションが間違っていて、残業代がフリーだと勘違いしている、といったケースがあります。裁量労働制においては、実際の運用を誤ると、遡って全額残業代を支払うこととなりますので、ご承知おきください。賃金請求権の時効は5年(当分の間3年)です。
また、休日と休暇の違いがわからずに、休暇を含めた全ての休みを、就業規則の休日の条文部分に記載していることがあります。これは、残業代を計算するときの単価が非常に高くなります。休日と休暇は、同じ休みでも全く別物ですので、休日を就業規則作成時に記載するときは、気を付けて頂いた方が良いと思います。
次に、実際に就業規則作成を行った後の運用の方法を少しご紹介します。就業規則作成後、就業規則を機能させるために必要なことは、役所への届出ではありません。役所への届出は、就業規則作成、届出義務を満たすに尽きる話です。実際に届出をして役所から受理印なるものを貰いますが、受理事実があっても役所が承認してくれたなどの安心を得るものでもありませんので、ご留意ください。
では、実際の運用とはどういうものなのか。
具備要件といって、労働者の就業場所において、常時就業規則の内容が周知されていたか否かがポイントとなります。つまり、就業規則作成後に、実態のある労働者の就業場所にて、いつでも就業規則が見られる環境下にあったかどうか、がとても重要となります。具備要件を満たしていないと、問題が起こった際に会社側は何もできない状態となります。強行的に問題解決しようとすると、労働者側から訴えられることもあり、厳しい局面にさらされますので、慎重な対応が必要となってきます。
次に、実際の問題と放置リスクなどを考えてみましょう。
就業規則作成の問題点を放置するリスク
例1)服務規律
服務規律という言葉を聞いたことはありますか。会社にとって問題となるような言動や、会社がやって欲しくないルールを記載する部分です。この部分にルール付けをしておかないと、無断欠勤が多い、遅刻が多い、業務命令に従わない、勤務態度が悪いなど、労働者に注意をしたり罰則を与えたりすることは、基本的にはできないのです。従って、指導、注意、罰則等を施す場合は、事前に服務規律や懲戒事由などの項目に基本的事項を入れておき、それを適用させるなどの方法を取っておかないと原則何もできません。実は、このあたりは労働基準法には記載がないのです。同様に、解雇をしたいと思っても、どのような時に、どのくらいの程度で、どのように解雇とするかなど解雇等に関するルールをつくり、実際にそれに沿った形式で運用をしないと、会社側が一方的な措置を取ろうとした際には訴えられる可能性もあります。
例2)休職
休職とはどういったことなのかをしっかり理解しておき、規定すべきか否かを検討することをお勧めします。まず、労働者が会社と労働契約を結ぶと、いかなる場合も必ず、労働者は労働する義務が発生します。但し、会社が定めた休日を除いてはです。この場合、所定の労働日と所定の労働時間は何としてでも労働することを履行しなければなりません。ただ病気やケガといった場合はどうなるのでしょうか。
まず、病気やケガの場合には、労働することが出来なくなった原因が誰の責任かにより、大きく問題が異なってきます。会社側の責任で病気やケガした場合は、労働基準法上の労働者災害補償規定に準じて、原則会社側で一切の補償を行います。
いわゆる労災といわれるものです。但し、通勤上の労災は、会社側の責任は問われないため、業務災害と認められた場合の話となります。しかし、基本的には労災保険の適用を受ける形となりますので、通勤上の病気やケガだとしても、補償は労災保険などから受けることとなります。
一方で、会社側に責任がない場合はというと、一般的には私傷病に関する病気やケガということになり、基本的には欠勤となるわけです。ただこの状態が長く続くとなると、労働者は労働義務を果たすことができなくなるわけですから、会社を辞めざるを得ないわけです。ここですんなり労働契約終了となれば良いのですが、実際はなかなかうまくいきません。
従って、労働契約を維持しながらも労働義務を特別に免除します、いうのが休職の規定となるわけです。復職などを前提に、一定の期間休んでみて復職できなければ、自然退職の扱いなどとなるわけです。こうするとどちらかが労働契約を解除したことにもなりませんし、下手に不当解雇などと訴えられるリスクも軽減できると思われます。
例3)所定休日と割増賃金
就業規則作成時の所定休日と割増賃金の設定内容を放置すると、リスクが生じます。前述の通り、所定休日の設定により残業代が膨れ上がることがあります。それは次の仕組みがあるからです。
休日とは労働義務がない日をいい、休暇とは労働義務がある日をいいます。従って、月給者の場合は、月の所定労働時間数を決めるにあたり、休日数によって所定労働時間数が変動するわけです。
そして、割増賃金の計算をする際の1ヵ月の所定労働時間数を計算する場合は、年間を通じて1ヵ月の平均を出すため、就業規則などで休日の規定に、年間休日に年末年始や夏季休暇などを全て盛り込むと1ヵ月の所定労働時間数は少なくなり、結果として、残業代の単価が引きあがっていくわけです。
決して大きな問題になるという話ではありませんが、この仕組みを理解した上で設定しているか否かがポイントになるというわけです。もちろん、労働者有利に設定をしていくことは全く問題がないことですが、後になってこのような事実が分かり、労働者へ不利益な変更を行うことになるとそれこそ問題が生じてきますので、今一度、慎重な見直しが必要なのではないかと思います。
休暇については、労働義務があるけれども労働義務を免除するという意味ですので、こちらに年末年始や夏季休暇などを入れて、本来はノーワークノーペイの無給ではありますが、有給とする設定もできます。これにより残業代の単価が変えられるのではないかと思います。
就業規則作成の問題点の解決策
前述の通り、良くわからない雛形や、専門家が用意した雛形だから間違いないと思って使用することは、絶対に避けるべきです。加えて、今ある規則と雛形を用いることは自由ですが、それをそのまま使うとマイナスになる場合が多分にあることをご認識頂いた方が良いと思います。
社会保険労務士だからといって、全部が全部を理解して説明できるかというと疑問です。試験に受かったというだけではなく、実際に実態事実と該当者の意向や背景に沿った上で、法律についてしっかりと説明してくれるような専門家に相談するか、自社で調べるなりした方が良いと思います。法律の解釈と運用は密接です。その上で、任意で適用させたい箇所を必要に応じて記載していくことを強くお勧めします。
就業規則の作成
絶対的記載事項と相対的記載事項
労働基準法第89条には、就業規則の内容として必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、当該事業場で定めをする場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」があります。「絶対的必要記載事項」に関する記載がない場合には、30万円以下の罰金に処せられますのでご注意ください。
絶対的必要記載事項
- ・労働時間
- ・賃金
- ・退職
相対的必要記載事項
- ・退職手当
- ・臨時の賃金(賞与)、最低賃金
- ・費用負担
- ・安全衛生関係
- ・職業訓練関係
- ・災害補償
- ・表彰
- ・その他
就業規則への記載事項
厚労省から出ている就業規則モデルを下記に記載します。
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第1章 総則
- 第 1条(目的)
- 第 2条(適用範囲)
- 第 3条(規則の遵守)
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第2章 採用、異動等
- 第 4条(採用手続)
- 第 5条(採用時の提出書類)
- 第 6条(試用期間)
- 第 7条(労働条件の明示)
- 第 8条(人事異動)
- 第 9条(休職)
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第3章 服務規律
- 第10条(服務)
- 第11条(遵守事項)
- 第12条(職場のパワーハラスメントの禁止)
- 第13条(セクシュアルハラスメントの禁止)
- 第14条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
- 第15条(その他あらゆるハラスメントの禁止)
- 第16条(個人情報保護)
- 第17条(始業及び終業時刻の記録)
- 第18条(遅刻、早退、欠勤等)
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第4章 労働時間、休憩及び休日
- [例1] 完全週休2日制を採用する場合の規程例
- 第19条(労働時間及び休憩時間)
- 第20条(休日)
- [例2] 1か月単位の変形労働時間制(隔週週休2日制を採用する場合)の規程例
- 第19条(労働時間及び休憩時間)
- 第20条(休日)
- [例3] 1年単位の変形労働時間制の規程例
- 第19条(労働時間及び休憩時間)
- 第20条(休日)
- 第21条(時間外及び休日労働)
- 第22条(勤務間インターバル制度)
- [例1] インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす場合
- [例2] インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複した時、勤務開始時刻を繰り下げる場合
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第5章 休暇等
- 第23条(年次有給休暇)
- 第24条(年次有給休暇の時間単位での付与)
- 第25条(産前産後の休業)
- 第26条(母性健康管理の措置)
- 第27条(育児時間及び生理休暇)
- 第28条(育児・介護休業、子の看護休暇等)
- 第29条(不妊治療休暇)
- 第30条(慶弔休暇)
- 第31条(病気休暇)
- 第32条(裁判員等のための休暇)
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第6章 賃金
- 第33条(賃金の構成)
- 第34条(基本給)
- 第35条(家族手当)
- 第36条(通勤手当)
- 第37条(役付手当)
- 第38条(技能・資格手当)
- 第39条(精勤手当)
- 第40条(割増賃金)
- 第41条(1年単位の変形労働時間制に関する賃金の精算)
- 第42条(代替休暇)
- 第43条(休暇等の賃金)
- 第44条(臨時休業の賃金)
- 第45条(欠勤等の扱い)
- 第46条(賃金の計算期間及び支払日)
- 第47条(賃金の支払と控除)
- 第48条(賃金の非常時払い)
- 第49条(昇給)
- 第50条(賞与)
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第7章 定年、退職及び解雇
- 第51条(定年等)
- [例1] 定年を満65歳とする例
- [例2] 定年を満60歳とし、その後希望者を再雇用する例
- [例3] 定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例(満65歳以降は対象者基準あり)
- [例4] 定年を満65歳とし、その後希望者の意向を踏まえて継続雇用または業務委託契約を締結する例
- (ともに対象者基準あり)
- 第52条(退職)
- 第53条(解雇)
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第8章 退職金
- 第54条(退職金の支給)
- 第55条(退職金の額)
- 第56条(退職金の支払方法及び支払時期)
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第9章 無期労働契約への転換
- 第57条(無期労働契約への転換)
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第10章 安全衛生及び災害補償
- 第58条(遵守事項)
- 第59条(健康診断)
厚労省モデルケースはこちら→
https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf
その他考慮すべきポイント
労働基準法と就業規則の関係性については、既にお話したと思います。これは、就業規則と労働契約書の間でも同様のことが言えます。労働基準法に達しない基準の就業規則は労働基準法に準じますし、就業規則に達しない水準の労働契約は就業規則に準ずることとなります。逆に、労働基準法より就業規則上で労働者へ有利に働く条件を記載した場合は、就業規則に従う形となり、就業規則と労働契約では労働契約上で労働者へ有利に働く条件を記載した場合は、労働契約に従う形となりますので、留意が必要です。
まとめ
ここまでお読みいただきありがとうございます。
皆様の経営が少しでも良い方向に進むことを願っています。
気になる点がありましたら、お気軽にユアリンクへご相談ください。
監修:社会保険労務士 山崎雄一
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