識者コラムColmun
労務の管理とは、労務管理の考え方と管理内容
- 目次
- ・労務の管理とは
- ・契約形態による差異
- ・労働保険と社会保険
- ・労働契約締結と雇用契約形態
- ・労働時間等の勤務形態
- ・給与計算と勤怠集計
- ・就業規則
- ・安全衛生等
- ・評価制度と昇給、降給
- ・その他
労務の管理とは
労務とは、報酬を受ける目的で行う労働勤務や、企業や組織における人的資源の一つであり、労働者の労働力や能力、労働条件、労働環境、福利厚生、人事制度、労働法規など、労働者と関係する様々な要素を包括的に指します。
労務管理は、これらの要素を適切に管理し、労働者の働きやすい環境を整備することにより、企業や組織の生産性向上や人材確保、定着の促進、ストレスや健康問題の解決などにつながる重要な業務の一つです。適切な労務管理を行うことは、企業の成長に欠かせません。ここでは、労働者に付随する労働環境や条件などの管理に関する事項と定義します。
契約形態による差異
労働契約と業務請負契約
労働契約とは、会社が労働者と使用従属関係において、労働者を指揮命令下におき、業務をしてもらった代わりに対価としての賃金を支払うことを言います。従って、業務請負契約とは似て非なるものということです。
では、労働契約と業務請負契約の何がどう違うのでしょうか。
様々な要素で労働と業務請負で違いが生じてきますが、わかり易くいうと、決定的に違う部分が使用従属関係にあるか指揮命令下にあるかという点にあります。これに基づき、労働が成立してくるといっても過言ではありませんので、業務請負のように業務を完結さえすれば良いという話ではありません。
労働契約でなく、業務請負契約にすれば労務管理費がかからない、などという方がよくいらっしゃいますが、いずれも関係法令の適用を受けた際の事実実態で判断されます。労働者との関係性があるにもかかわらず、安易に会社側や当事者の都合で業務請負契約をしていると、予期せぬ事態に対応できなくなりますので、注意が必要です。
では、労務の観点から労働契約と業務請負契約の違いに何があるかを簡単にご説明します。
使用従属関係と指揮命令下の有無
労働者は、労働契約を締結した場合、会社のルールに沿って忠実に労務の提供を行い、業務遂行にあたる責務が生じます。一方で、業務請負契約の場合は、使用従属性や指揮命令下というよりは一定の業務を完結するのみに留まります。従って、会社側から業務を完結することについての詳細を問われることは、契約内容にはよりますが、一般的にはありません。但し、業務や仕事の結果については、労働者という立場でなく事業主という立場での責任などが生じてきますので、その部分については、労働者の比ではないくらい重責であると言えます。
法律等と福利厚生性
労働者と業務請負者とでは、労務管理に付随する事項でもある労働基準法と福利厚生性の適用を受ける側面に差が生じてくると思います。
契約や条件について
労務管理における労働契約においては、合理性のない一方的な契約の解除が原則できないのに対して、請負契約は、契約内容によりますが、一方的な契約の解除が可能です。対価についても、労働者であれば、最低賃金法や割増残業代、労働時間上限、休日基準等の最低基準設定がおおいにありますが、請負契約では、いずれの項目もほぼフリーとなります。大体の方は、頭では分かっていても、この条件の差は大したことがないと思っているため、いざ事態に直面すると様々な面で弊害を受ける可能性があります。従って、慎重な検討をした方が良いといえます。
災害補償について
労務管理における災害補償としては、業務中の病気やケガの場合は、労働基準法により使用者の責任として、災害補償規定に基づき、一定の補償を行うことが義務付けられています。準じて労災保険の適用を受け、有事のときには必要な補償が相当に受けられるのが労働者です。一方で業務請負者は、一切の補償が受けられないだけでなく、健康保険の適用を受けている請負者は、一定の条件を除き、全額自己負担での治療や補填をしなければならないということになります。この治療費の全額自己負担というのは自由診療、すなわち7割負担をしてもらえないという事ですので、ご承知おきください。
福利厚生等について
前述にかかる部分でもありますが、併せて雇用保険にも入れません。雇用保険は、いざ失業をした場合に受ける生活費の保障システムです。加えて、何らかの資格を取得する際にかかる費用の補てんなどの精度も充実しているため、労働には非常に有用性があると思います。もちろん、業務請負者には適用がありませんので、事前に失業時等の準備が必要となってきます。
労働保険と社会保険
労務の管理で必須なのは、労働保険と社会保険です。前述した業務請負契約には、労働保険と社会保険の適用はありません。ここでは労働保険と社会保険について簡単にご紹介します。
労働保険とは
労災保険と雇用保険の総称として、労働保険と呼びます。
労災保険
労務管理の対象である労働基準法の適用を受けるすべての労働者が適用範囲です。名称、身分、国籍は問いません。また当然に適用を受けますので、民間の保険のように、誰が入って誰が入らないなどといった概念もありません。よく民間の労災上乗せ保険があるから大丈夫だと勘違いされている方がいらっしゃいますが、民間は関係なく、法令により適用を受けます。また労災上乗せですので、労災が適用されなければ、場合によっては保険の発動はないように思えます。
労務管理の中で労災保険は、労働基準法の災害補償規定に準じて補償を行う制度です。前述の通り、そもそも労働基準法では、業務上の病気やケガなどは、使用者、つまり会社側に責任がかせられることとなっています。うつ病なども業務上として認められれば、会社側の責任になるということです。その補償は、健康保険では一定の条件を除き適用外となるため、自由診療となり、全額自己負担となるというものです。
また、災害補償規定に記されている補償値まで補償を行う必要があるということでもあり、これは莫大な金額になります。従って、労災保険法を適用させ、保険料を強制的に負担する仕組みを作り、保険の原理を使って、国が全額負担するようになっているわけです。この保険料の管理をする仕組みは、徴収法という法令に準ずることとなっております。
尚、通勤上の病気やケガは、労働基準法の災害補償規定にはありませんが、労災保険法の適用を業務災害の補償に準じて受けることとなりますので、ご安心ください。
雇用保険
労務管理をする中での労働者であり、1週間に20時間以上且つ31日以上の雇用見込みのある方が該当することとなり、被保険者として加入します。なかには、うちはまだバイトしかいないから適用はない、などと解釈をする方がいらっしゃいますが、バイトだとか雇用形態や立場は関係ありません。すなわち、雇用保険法の適用を受ける者か否かによるのです。もちろん昼間の学生など一部の方には該当がない場合はありますので、適切にどなたが該当か否かを確認されると良いと思います。
また、雇用保険も失業をした際の生活費を保障する保険です。雇用保険法によって様々にルールが引かれています。教育研修受講や資格取得などをする際も一定の費用が支給される制度としても備えがあるため、労働者にとって有用性の高いシステムであるといえます。一方で、一定の条件を満たした就業制度の構築など、会社側が労務管理を行う上で必要となる環境整備や社内のルール化などを行う際に、国から費用負担や助成金が支給される制度でもあります。厳密には雇用保険法ではなく、雇用保険料の財源を元に雇用保険被保険者を対象として該当があれば、恩恵を受けられる仕組みであるということです。
労働保険
労務管理の煩雑な業務として、労働保険申告等があり、労働保険料としては、労災保険料と雇用保険料とに分かれています。労災保険料は、労働者賃金×労災保険法上の業務区分の該当料率で算出されます。雇用保険料は会社負担分と労働者負担分に分かれていて、基本的には会社負担分が多くなりますが、いわゆる社会保険料のような大きな負担にはならないかと思います。雇用保険料の算出は、労働者賃金×雇用保険料率(会社負担率、労働者負担率)となります。尚、労災保険料率と雇用保険料率は、変動があるものですので、国からの料率変更の案内には注意が必要です。ちなみに労働者からの雇用保険料負担は、労働者賃金を払う都度、控除となります。
労働保険は、労災保険と雇用保険を合わせて申告します。一般的に労働保険という言葉は、保険料を納めるときなど徴収法の中で使われることが多く、年1回6月に労働局から封筒が送られてくる労働保険の申告と納付があると思います。
労働保険の申告は、年に1回、事前に概算保険料を算出して納付を行い、確定保険料との差額を調整する申告作業となります。労務管理では基本的な業務になります。労働保険申告時期の対象は、基本的には毎年度4月から翌年の3月までの実際に支払った労働者賃金(賞与含む)を元に算出を行います。行った結果、事前の予測で納めた保険料との差額が出ますので、その確定処理と納付、加えて概算額は同額で次年度の予想申告として、保険料を納付するという流れになります。ちなみに申告納付時期は、一般的に7月10日までです。
また、労働保険事務組合といって、国の認可を受けた労働保険料等を管理納付するような団体に労働保険申告、納付と雇用保険手続き等を委託すると、毎年度4月申告となります。事業主は業務災害等の労災保険の補償対象外とお伝えしましたが、この制度のメリットとして、一定の要件を満たすと事業主も労働者と同様に労災保険に加入できるという仕組みもありますので、興味がある方は、是非、検討されると良いと思います。
社会保険とは
労務管理において社会保険は、広域には労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険等となり、狭域、つまり一般的には健康保険と厚生年金保険を指すかと思われます。
労務管理をする中での労働者であり、1週間に30時間以上且つ17日以上の労働をする者、若しくは、自社の所定労働時間と月の労働日数を分母にして4分の3の労働をする者が該当することとなり、被保険者として加入をします。なかには、前述した雇用保険と同様に、うちはまだバイトしかいないから適用はない、などと解釈をする方がいらっしゃいますが、バイトだとか雇用形態や立場は関係ありませんのでご留意ください。健康保険法と厚生年金保険法の適用を受ける者か否かによります。もちろん一部の方には該当がない場合はありますので、適切にどなたが該当か否かを確認されると良いと思います。ちなみに昼間の学生も条件を満たせば適用となりますので、雇用保険との違いに注意が必要です。
社会保険料は毎月健康保険と厚生年金保険を合算し、社会保険料として、該当月の翌月の末日に引落で払う形となります。若しくは納入告知書等として、請求書のようなものが到着しますので、それにて払い込むことになります。
保険料額は、まず月額の賃金(通勤費含む)を保険料等級額表に当てはめて適用がなされます。保険料等級額表とは全国健康保険協会が都道府県別に定めているもので、各月、原則当月の月末時点での加入者分で算出がされます。保険料率も、雇用保険料率等とは桁違いに高く、負担が大きいと言えますが、それだけの保険料を負担するメリットもあるかと思います。保険料は会社側と労働側で基本的に折半となります。
労務管理の煩雑な業務として、社会保険料の申告と改定というものがあります。申告を定時決定と呼び、算定基礎届という書面で申告をします。改定を随時改定と呼び、月額変更届という書面で申告をします。簡単にどういうものか解説します。
まず定時決定です。
これは毎年4月5月6月支給の賃金の平均をとり、保険料額表にはめて、等級の設定を行います。これに準じて、保険料は決定され、その年の9月分から改定となり、10月の保険料払いから変更となります。
次に随時改定です。
これは随時、固定的賃金が変動した際に、変動をした事実により初めて賃金が支給された月を1月目として、2月目、3月目の平均を算出し、今までの保険料等級と比べて2等級以上の差が生じた際に申告を行います。この場合にややこしいのが、賃金が上昇した場合に、保険料等級が上昇しないと変更をしません。下降する場合は据え置きです。逆に賃金が下降した場合は、保険料等級が下降しないと変更をしません。上昇する場合は据え置きです。
その他、算定となる月の日数も17日以上でないとならず、1月目は通常出勤、2月目は半月欠勤している、3月目は通常出勤の場合は、継続性がないため、改定の対象外となります。
給与計算上では、改定月の翌月の給与から社会保険料の控除額変更も行わなければならないので、注意が必要です。尚、定時決定と随時改定がかぶる場合は、随時改定が優先となります。
労働契約締結と雇用契約形態
労働契約締結
労務管理上での労働契約は口頭契約でも成りたちますので、書面発行は不要ですが、トラブル防止の観点からあった方が良いと思います。但し、労働条件通知書は必要ですので、労務を管理する上では、雇用契約書と併せて労働条件通知書とする形式が合理的であるといえます。
労働条件通知書と雇用契約書
労働条件通知書の発行義務はさることながら、実は明記事項にポイントがあります。それは絶対的記載事項の 書面交付義務です。次の内容で(4)の昇給に関する事項以外のものについては、書面にて交付する義務がかせられているのです。
- (1)労働契約の期間に関する事項
- (2)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
- (3)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
- (4)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- (5)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
上述の中でも一番大変なのが、(5)の退職関する事項(解雇の事由を含む。)です。
就業規則作成の必要性のコラムにも記しましたが、退職に関する事項はボリュームもあり、慎重に検討し、明示する部分でもありますので、付け焼き刃なものですとあとで問題が生じてくる可能性があり、注意が必要です。就業規則作成の必要性で詳細に触れていますので、関心のある方はご覧ください。
雇用契約形態
労働基準法において、雇用契約形態なるものは存在しません。一般的には、正社員、パートアルバイト、嘱託などの用語はありますが、社会通念での慣行として用いられているものであり、法令上は特段のくくりは定められておりません。慣行も1つの実態ではありますが、あくまで慣行です。
では、法律を踏まえた雇用契約形態をどう捉えておくべきでしょうか。
それは、時給、月給、有期雇用契約、無期雇用契約のいずれかの組み合わせであることに尽きます。従って、月給で有期、無期契約、時給で有期、無期契約のいずれかで、労働者の契約を締結してもらえると良いと思います。
ここで非常に重要なことをお話しします。
有期契約を結ぶ時ですが、試用期間をよく使われることと思います。この試用期間と有期雇用期間は、法律上、まったく異なりますので、くれぐれも注意が必要です。
労務管理上、試用期間とは適材適所の見定め期間とされており、一般的に無期雇用契約や正社員雇用などに付随した適用を常とします。従って、有期契約期間での試用期間は、物理的にできなくもないですが、試用期間=有期契約期間でないことを念頭に入れておかないと、期間採用が終了した後は更新しない場合に、「試用期間だと思いましたので、雇用を継続してください」と労働者に言われれば、問題になる可能性がありますので、事前の労働契約締結時にはお気をつけ下さい。求人などでもよく試用期間とされていますが、それは適材適所見定め期間とされ、決して一方的に契約を終了できる期間と考えない方が宜しいかと思います。
労働時間等の勤務形態
労務管理において、念頭にいれておくことの法令はやはり、労働基準法です。求人掲載や労働契約締結時に、どのように自社の労務管理上の勤務時間等を捉えておくべきか、ご説明します。
労働時間について
日本は時間外労働をしてはいけない国となっています。但し、36協定なるものを作成届出すると認められると法律では定められています。
ここで前提と建前と実際をよく理解しておくことをおすすめします。
労働することの上限は、1日8時間、1週40時間です。話はこれで終わりです。
実際に朝9時から1時間休憩を入れて、深夜0時まで仕事をしていても問題はありません。36協定届を作成、提出されていればです。従って、求人掲載する際は、9時~18時の実働1時間、休憩1時間ありと記載し、時間外労働ありと記せば話は終わります。あとは実際の給与計算を行った際に、所定の時間を超過した部分と法定外時間の割増を払ったかどうかだけが問題となるわけです。
もちろん、安全衛生法上の観点から無限に労働させることができるというわけではありませんので、誤解されないようお願い致します。
裁量労働について
労働時間について、よく勘違いをされている方が多いので、お伝えしておきます。巷によくある裁量労働制。
これは運用の仕方が適切に行われて、はじめて合理性のある恩恵が受けられるものですので、注意が必要です。
よくあるのが、1ヵ月や1年の変形労働時間制を入れたから、うちは残業代がなくなる。フレックスタイム制だからうちは、出勤が自由裁量であり残業代が軽減される。
確かに運用を誤らなければ宜しいかと思いますが、次にあげる条件を労務の管理をされている方が理解されているかどうかが重要です。専門家であっても、要点をおさえきれないくらい煩雑な業務かと思われます。
基本的には、変形労働時間制を設定すると、任意で動かすことができず、変更したらした分だけ、通常の割増等を支払う必要があります。1年変形の場合は1年をもっての変形となるため、途中の入退社があった場合は、原則、全て一定の割増計算に置きなおして差額を支払わなくてはならない可能性があります。またフレックスの場合は、制度としなくとも、労働者自身の裁量で出退勤時刻を決定できるという内容を就業規則等に記載して運用すれば、合理的な勤務時間の適用がある労働環境とすることが可能です。
無論、フレックスタイム制による法定外割増の算出基礎にて多少は割増が軽減できるかと思いますが、こちらも上限がありますので、それを超えると月毎の法定外割増を支払うことになるという認識は持って頂いたが方が良いと思います。とかく労務の管理をする方々の業務がものすごく煩雑となるため、それをご承知おきの上、メリットがあると思えば導入されると良いかと思います。
休日と休暇について
労務の管理をする上での要となる部分です。
求人を出すときにも重要となりますので、よくご理解下さい。
まず休暇と休日についてです。休暇と休日については、そもそも意味合いが大きく異なってきます。休暇とは、労働義務があるが会社が労働義務を免除してあげるという意味であり、休日は、そもそも労働義務がないので労働する必要がない日となります。
これはとても重要です。
なぜならば、残業代の計算に大きくかかわるからです。土日祝日及び年末年始と夏季休暇を全て休日と設定した場合は、月給者であれば労働する時間数が年間平均で少なくなります。
一方で、土日祝日のみを休日と設定し、個別に年末年始と夏季に休暇制度を与えると、前者よりも月給者の労働する時間数が年間平均で多くなります。これを月給で割ると1時間当たりの賃金が算出され、同時に時間外労働をした際の賃金も算出されます。
ですから、実態と法的解釈を良く理解した上で設定をすると良いと思います。ちなみに、休暇制度は必ずしも有給でなければならないルールもありませんので、無給の休暇もあるということに留意を頂くと良いと思います。
給与計算と勤怠集計
労務管理でもっとも煩雑となるのは、給与計算と勤怠集計です。
それぞれ簡単に仕組みとルールをお伝えします。
給与計算は、毎月働いた賃金の計算を行います。毎月というのも、労働基準法で一定期日払いの原則とされていて、その最長期間が勤怠の締め日から1ヵ月とされているからです。
基本的な流れは、まず勤怠の集計を行うところから始まります。1ヵ月間において、労働日ごとの始業時刻と終業時刻の記録を吸い上げ、事前に取り決めた就業規則や雇用契約書で設定した所定労働時間と所定賃金、所定休日に基づき、月給者ならば、所定労働時間を超えた超過時間分と1日8時間、1週40時間を超えた法定外時間分の時間を算出し、事前に算出した時給単価に応じて、給与計算に記録付けしていくわけです。
初見の方ですと、ここまでの説明でもう煩雑だと思われると思います。実際は給与計算ソフトや勤怠集計ソフトがあり、こちらにこれらを打ち込めば間違いなし、と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、注意が必要です。必ず、自社の会社の月の所定労働時間と月給、休日を踏まえた残業代単価を出すときの年間平均所定労働時間と月給を踏まえて、実際に1日8時間、1週40時間を超えた部分がどこなのかを理解した上で、ソフトに頼った方が良いと思います。それほどソフトは万能ではないので、入力する側がきちんと理解をした上でソフトを使いこなすことをおすすめします。否定をするわけではありませんが、ソフトはITエンジニアが開発しており、過去に社会保険労務士ぐらいの知識があって、給与計算と勤怠集計をバリバリやっていた人が開発するならまだしも、恐らくそうではないからです。
尚、年俸制の場合は全て割増賃金の算定基礎になりますので、注意が必要です。毎月30万×12か月で360万+賞与40万で年収400万と年俸制と称して400万を渡して、月割りにするか、前者のように分けて支給しても、残業代は400万での算出基礎額となりますので、お気を付けください。前者の算出基礎額は360万ベースとなります。
一通りの計算と入力を終えたら、あとは何を気にしておくべきか。それは、社会保険の保険料の控除や変動の計算です。
復習となりますが、固定的賃金を変更した場合で考えてみましょう。
定時決定の場合は、毎年4月5月6月支給の賃金の平均をとり、保険料額表にはめて、等級の設定を行います。
これに準じて、保険料は決定され、その年の9月分から改定となり、10月の保険料払いから変更となります。従って、その年の新保険料を変更するタイミングは10月の給与からということになります。
年の途中で入社した方の場合、入社月の末に在籍して社会保険に入っていた場合は、保険料控除タイミングは翌月の賃金支給時のタイミングでの控除となります。
随時改定の場合は、随時、固定的賃金が変動した際に、変動をした事実により初めて賃金が支給された月を1月目として、2月目、3月目の平均を算出し、今までの保険料等級と比べて2等級以上の差が生じた際に4月目に申告を行いますので、5月目の賃金支給時のタイミングで改定保険料の控除を行います。
この場合は、賃金が上昇した場合に、保険料等級が上昇しないと変更をしません。下降する場合は据え置きです。逆に賃金が下降した場合は、保険料等級が下降しないと変更をしません。上昇する場合は据え置きです。その他、算定となる月の日数も17日以上でないとならず、1月目は通常出勤、2月目は半月欠勤をしている、3月目は通常出勤の場合は、継続性がないため、改定の対象外となります。すなわち賃金からの改定保険料の控除も行いません。
賞与の場合は、同じ保険者である健康保険の場合は、4月~3月までの支払い累計が573万円までは保険料が算出されます。当然に、役所への申告は全てにおいて必要になりますので、お忘れにならないようにしてください。その他、厚生年金保険料の申告は上限が都度150万までは保険料が算出されますので、ご留意ください。ちなみに所得税は、賞与支給月の前月の給与の所得水準により変動がなされますので、併せてご留意ください。
次に住民税の控除です。
毎年6月支給の給与のタイミングで、住民税を控除する特別徴収という仕組みがあります。その年の1月1日時点で住所のある市区町村にて、前年の源泉額により算出された住民税を6月~翌年の5月の12月で会社側に給与から控除するよう通知が来ます。特別徴収ではない、普通徴収の場合は、本人が自分で払う形となりますが、給与所得者の場合は、原則、給与支給者のところで特別徴収として支払わされるのが原則です。
入社時期と通年で控除する場合は良いのですが、労務の管理で頭を悩ませる部分として、退職時には退職の連絡を該当の市区町村へ報告(異動届出書を提出)する必要があるのです。これを怠ると基本的には会社が多く住民税を多く払うこととなり、多く払った分退職された労働者の方からその分を払い戻してもらう手間がでてきたりしますので、十分にご注意ください。
最後に源泉税や住民税、年末調整についてです。
源泉所得税は、当月のものを翌月に払うのが原則です。但し、特例により、7月と1月に2回に分けてまとめて払えば足り得るという方法もありますので、税理士に確認するなどして対応をすると時間に猶予が生まれると思います。これは住民税も同様で、特例が認めれると2回に分けて納付することができるので、毎月銀行に行かなくとも良くなります。
年末調整は1年に一度、所定のルールに基づき、年間の源泉額を算出する業務です。過不足を算出して、その年の源泉額を確定させて、労働者への賃金の過不足調整を行います。その後、会社は法定調書合計表の提出を行い、1月31日までには、各市区町村へ各自治体に自社で給与を受けた労働者の源泉票を申告(給与支払報告書を提出)します。
就業規則
就業規則作成の必要性のコラムにて記述がありますので、詳しくはそちらをみて頂けると幸いです。労務の管理としては、就業規則は必須です。作成届出義務の有無より、労務管理の必須アイテムとしての有用性は多大です。是非、作成するようにしてください。
安全衛生等
ここでは、安全衛生法について簡単に記述します。
もともと労働基準法の中にあった労働者安全衛生法ですが、結構シビアな法律です。しっかり準備をしておかないと労働基準監督署の目が光ってきます。ポイントとしては次のようにお考え下さい。
健康診断
会社側が使用者の責任において、労働者の心身の健康状況を把握する義務を課しているものです。従って、健康診断が必須となってくるわけです。特定の場合を除いては、入社から3ヵ月以内と1年に1回という取り決めがあります。健康診断は補助が受けられる部分があり、全国協会けんぽHPの該当支部より近隣の提携診療機関を探し、会社等の最寄りの医療機関にて受診すると良いと思います。費用は原則、会社負担です。健診中の賃金は、特定健診を除き、無給で問題ありません。また、診断結果は本人了承のもと会社側に写しなどを提出して頂き、5年の保存義務があります。
ちなみに、労働者に関する帳簿の保存義務が関係法令に基づいて、2年~5年と幅広くありますので、会社の労務の管理の観点から、いずれも5年間は保存しておいて間違いはないと思います。
面接指導
これは精神的な疾患等を未然に防ぐ観点から、時間外労働80時間を超えた場合に、労働者の申し出により面接指導を受けさせるものです。近年、精神疾患等による問題は、年々大きくなってきていることの背景等に鑑み、会社側としても特に留意すべき事項と言えます。他にも一定の要件を満たせば、産業医、衛生管理者、衛生推進者等の選任義務なども課せられることとなっているため、適宜、管理が必要と言えます。
管理監督者などのいわゆる管理職等についても、時間外労働80時間を超える部分について時間外労働の適用がなくとも、健康管理時間等の観点として、過重労働にならないような自助努力を会社側が行っていくことが必要ですので、併せて留意されると良いと思います。
評価制度と昇給、降給
評価制度
労務管理と少し路線が異なる評価制度。ただ昇給と降給が絡むので、少しお話したいと思います。評価制度については、任意の設定です。労務の管理をきっちりとやりたいのであれば、前述してきたような事項については、ある程度しっかりと対応や準備ができており、仕組化できた後に、この評価制度が構築されると整合性が取れて良いと思います。特に降給の場合に、顕著にあらわれます。
日本がいかにしても賃金上昇ができないか。なぜ世界の賃金水準から賃金上昇が出遅れているのか。それが物価高にならない要素の一つに、賃上げができない理由があるからだと思います。
賃金の昇給については、労働基準法は努力義務としていますが、降給については、原則、不利益な変更となるため、労働者からの申し出があった場合は合理的な理由として認められない限り、かなり厳しい法的効力が働くといっても過言ではありません。従って、結果主義を唱えて大きく昇給をさせた後、結果が伴わないからといって大きく降給ができない状態となるわけです。労働基準法をベースに、生存権や生活保護の観点が組み込まれているため、やみくもに労働者の生活水準を降給によって低下させることが禁止されているのです。この仕組みが改善されない限り、日本は賃金の大幅な上昇は厳しいといえます。
では、人事評価制度で降格人事とするには、どのような妥当的な方法があるのか。一概には言えませんが、例えば、基本給とは別の評価手当や役職手当などがあった場合に、部長職が課長職になり、役職手当が下がることはおかしなことではないと思います。但し、その人事考課が合理的な理由での評価であったかは問われる可能性がありますので、いずれにせよ、慎重な取り組みが必要になってくることは、間違いないといえます。
その他
法定三帳簿の作成
法定三帳簿とは、会社として保管しなければならない「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」のことを指します。法定三帳簿については、労働基準法に定められており、これに違反した場合は、30万円以下の罰金が科せられます。
労働者名簿
使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない、変更があった場合は遅滞なく訂正しなければならない、と定められています。(労働基準法第107条)
具体的には、性別、住所、従事する業務の種類、雇入の年月日、退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合は、その理由を含む、死亡の年月日及びその原因を記載しなければなりません。(労働基準法施行規則第53条)
賃金台帳
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない、と定められています。(労働基準法第108条)
具体的には、氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、法の規定によって労働時間を延長し、もしくは休日に労働させた場合または午後10時から午前5時までの間に労働させた場合には、その延長時間数、休日労働及び深夜労働時間数、基本給、手当その他賃金の種類ごとのにその額、労使協定に基づいて賃金の一部を控除した場合はその額を記載しなければなりません。(労働基準法施行規則第54条)
出勤簿(記録の保存)
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない、と定められています。(労働基準法第109条)
皆様の経営が少しでも良い方向に進むことを願っています。
気になる点がありましたら、お気軽にユアリンクへご相談ください。
監修:社会保険労務士 山崎雄一
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